
TOKYO BLACK HOLE - 大森靖子

TOKYO BLACK HOLE(CD+DVD) - 大森靖子

TOKYO BLACK HOLE(CD+DVD+書籍)(初回限定生産盤) - 大森靖子
(楽曲レビュー)
1.TOKYO BLACK HOLE
弾き語りで歌われる楽曲にバンドサウンドを入れて、メジャー仕様にしたのがこの演奏という趣。ただこれだけ装飾がされても、アングラな弾き語りの雰囲気を残している辺りが彼女の個性というべきなんでしょうか。強いて言うなら「歌舞伎町の女王」を歌う椎名林檎みたいなものだと思いますが、それとはまた違うような。この曲にはどちらかと言うと夜の渋谷のイメージが合うような気がします。いずれにしても今までの大森靖子とは違う雰囲気、でも大森靖子としか言いようがない雰囲気でもあり。不思議な気持ちにさせるナンバーです。
2.マジックミラー
昨年7月リリースのシングル表題曲。女性の生きざまを描いた歌詞があまりにも秀逸な、名曲中の名曲。
3.生kill the time 4 you、、
跳躍力のあるポップナンバー。「愛する」という感情を激しく歌った内容に仕上がっています。亀田誠治プロデュース。
4.超新世代カステラスタンダードMAGICマジKISS
タイトルを見て分かる通り、独特の表現が光りまくっているラブソング。ただ表層的で美しい愛でなく、もっと具体的に踏み込んでいる部分が他のアーティストと違うところだとあらためて感じる楽曲でもあります。
5.愛してる.com
今年2月リリースの先行シングル。lyrical schoolのPVが今話題になっていますが、この曲のPVもスマホ向け。メロディーはゼクシィのCMにもそのまま流用できそうな感じがします。
6.SHINPIN
1990年代中盤〜後半のシティミュージックを思い出させるバックの仕上がり。声質も含めて、Charaがヒットしていた頃を思い出しました。歌詞の内容は全く違いますが。
7.さっちゃんのセクシーカレー
シングル「マジックミラー」と両A面で発表された楽曲。料理しているさっちゃんという彼女を愛してる、という内容を切々と歌う楽曲。
8.劇的JOY! ビフォーアフター
シングル「愛してる.com」と両A面で発表された楽曲。PIZZICATO FIVEを思い出させる小気味良さとセンスの良さに入るデスボイス風の合いの手。そのギャップが大変に素晴らしいナンバーです。
9.■ックミー、■ックミー
■の部分はあて字でもなんでもなく、ただ”ロ”と読むだけのようで。セリフとサビのメロディーで構成される楽曲はミクスチャーロックとポップの中間を少しずらしたような感じで、いわば独自のジャンル。
10.ドラマチック私生活
割とポップにノーマルな楽曲かと思いきや、間奏のセリフで突然早回しになって壊れていくのが衝撃的。
11.無修正ロマンティック〜延長戦〜
この曲だけインディーズ時代から関係の深いカーネーション・直枝政広の作曲。彼とのデュエットソングは大人の香り漂うけだるいポップス。夜の雰囲気タップリ、良いのではないでしょうか。
12.給食当番制反対
ウィスパーボイスで歌う声色に、子どもの頃の淡い風景を思い出させるナンバー。
13.少女漫画少年漫画
吹奏楽アレンジを入れた、6分超の壮大なバラード。教室の風景から想起させる歌詞は文学の香りがあります。比較的シンプルなアレンジだからこそ彼女の魂の歌声がダイレクトに伝わります。今回の作品はこれまでと違うテイストがいくつもありますが、芯の部分はこの曲を聴く限り大きく変わりはないようです。私としましては、やっぱりこういう楽曲が大森靖子の真骨頂という印象がありますね。今年の彼女の代表曲は間違いなくこれになると思います。名曲。
(総評)
メジャー2ndアルバムということで、前作『洗脳』よりもかなり進化した内容に仕上げたという印象です。特にアレンジのバリエーションが多くなっていまして、サウンドプロデュースも亀田誠治や大久保薫、ミト(クラムボン)などそうそうたる顔触れ。数年前には想像もつかない作品に仕上がっています。ただ以前と比べると、2.と13.は別として個人的に心にグサリと刺さる楽曲が、今作はあまりなかった印象もあります。これは出産を経たからとか心境の変化ではなく、メジャーレーベルだからこそプロとして作った楽曲という感覚があったことに起因しているような。以前と比べると素直に、心の底から引きずりだしたという印象が今作やや少なかった感もあります。もっともこれは自分自身が大森靖子の楽曲に慣れてしまったこと、あるいはそれを求めすぎてしまっているだけなのかもしれないですが…。
ただこういう個人的な感想を抜きにすると今作もやはり間違いなく名盤、特に聴きやすいメロディーは確実に多くなっているので、アルバムを通して聴くとあっという間に時間が過ぎる作品になっているように思います。”生きる”という意味を深く直接的に描いた歌詞は相変わらず読み応え・聴き応え抜群で、おそらくライブも凄まじい内容になっていることは変わりないはずです。今作を経て彼女のポジションはまた一段とランクアップしていること間違いなく、そのうち日本武道館の単独公演も実現することでしょう。ただ最初見た時のインパクトを考えると、やっぱりどちらかと言うとステージは小さめのライブハウスで制約なく好き放題やる方が合っている印象もあるのでその辺複雑な面もありますが。