2016年05月30日

Negicco『ティー・フォー・スリー』

ティー・フォー・スリー - Negicco
ティー・フォー・スリー - Negicco

(楽曲レビュー)
1.ねぇバーディア
 昨年8月リリースのシングル曲。レキシの池田貴史が楽曲提供。歌詞もそうですが、シングル発売時にワンマンが開催された、日比谷野外音楽堂へ向かう道をテーマにしたPVも”ここから始まる”をテーマにした内容。一つの楽曲としては勿論、アルバムの最初の曲としてもこれ以上ない仕上がりになっています。

2.RELISH
 Negiccoの曲でドライブが似合う曲と言えば「ルートセヴンの記憶」がありますが、この曲はそれよりも都会を走っているような印象。ルートセヴンが国道7号線の日本海側なら、こちらはどこになるでしょうか。関東近辺の海が似合う、渋滞が少なそうな路線のイメージですが。長年彼女たちに提供しているconnie作曲、作詞は岩里祐穂。今井美樹や坂本真綾にももいろクローバーZ、最近だと花澤香菜に多く歌詞提供しているこの人も実は新潟出身。どことなくオシャレさを感じさせる雰囲気は、まさしく当時の今井美樹のヒット曲そのものといった感じもあります。

3.マジックみたいなミュージック
 ソウル・ディスコバンドのMagic,Drums&Loveが編曲担当。こういうファンキーでソウルな演奏だと歌い手・特に男性の場合、ボーカルも鮮やかなほどにファンキーで勢いあるものになります。ですが彼女たちの歌唱は優しさと癒やしとオシャレ、この辺りの要素がメインになります。おそらく歌い手が変わると受け止め方や演奏も相当違ってくるはずです。そういう意味で考えると、まさに”マジックみたいな”ミュージックを体現している楽曲と言えます。サビよりもその直前のハモリとソロが個人的には大きなポイントになるでしょうか。じっくり聴けば聴くほどに感じ入る部分が多くなる名曲です。

4.恋のシャナナナ
 PIZZICATO FIVEサウンドがconnieサウンドにそのまま移行した、という趣の明るい楽曲。あるいはヒットする前のPerfumeの中田ヤスタカサウンドでしょうか。「ビタミンドロップ」「モノクロームエフェクト」辺りの。いずれにしても都会的センスに溢れた格調ある盛り上げソングといったところで、何度も繰り返し聴きたくなる気持ちにさせられる楽曲であります。

5.Good Night ねぎスープ
 一人暮らしの女性(20代・OL)をイメージした歌詞が印象的な、聴かせるバラード。アイドル的な要素全くなしのアーティスティックな内容は、メンバーの年齢で考えると実に相応。したがってこれまでのNegiccoにはない新しい魅力が出ている楽曲と言えます。数多くのアーティストの楽曲を手掛けているmabanuaが編曲担当。

6.江南宵唄
 Spangle call Lilli lineの作曲・編曲。このバンドの女性ボーカルの特徴は”ハスキーでどこか気だるげな””浮遊感ただよう””美メロ女性ヴォーカル”らしいです。実際彼女たちの楽曲を聴いてもそういう印象で、正直申し上げるとアイドルに楽曲提供するイメージは全くないグループです。その世界観をほぼそのまま踏襲しているこの曲は低音とクールな歌唱で聴かせる、極めて新しい境地を開拓しているナンバー。レコーディングでもメンバーはものすごく苦労したようで、実際完璧に歌いこなせているかと言われると難しいところですが、この曲をアルバムに入れる意味と得たものは大変多いと言い切れます。あらゆる意味で、凄いと思わせるナンバー。今回のアルバムにおいては間違いなく必聴曲と言えるでしょう。

7.カナールの窓辺
 昨年末リリースされたシングル「圧倒的なスタイル-NEGiBAND ver.-」カップリング曲。ユメトコスメ主宰、アニソン方面への楽曲提供も数多い長谷泰宏の楽曲提供、Negiccoにとっても縁の深いアーティスト。生音で全て構成される演奏、美しく構成されるメロディーにハモリも含めた3人の歌唱・コーラスが大変丁寧に仕上がっています。派手な内容でないからこそメロディー・リズム・ハーモニーの基礎的な三要素が非常に重要であるとあらためて感じさせる楽曲ですね。曲作りのお手本として、そのまま教材にしたい名曲です。

8.虹
 シンガーソングライター・平賀さち枝の楽曲提供。エフェクトを使ったサウンドを採用した編曲担当はKai Takahashi。こちらも基礎に忠実に、丁寧に作られたポップスですが、それにスパイスが加わったような内容ですね。

9.SNSをぶっとばせ
 堂島孝平作詞、OKAMOTO'Sのオカモトコウキ作曲でバンド演奏もOKAMOTO'S。もっと激しいロックナンバーかと思いきや意外とメロディアス。SNSをかなり有効に使っている彼女たちがこういう歌詞を歌うのもなかなかに趣深いものがありますが、それを通して知った旧友の結婚をテーマにした歌詞はやはり秀逸。Facebook利用者で思い当たる人は相当多いのではないでしょうか。全体的に素晴らしいですが、特にラストの”まるでわたしの心はシェアできないの”という歌詞には座布団10枚を与えたいです。

10.矛盾、はじめました。
 先行シングル曲。「SNSをぶっとばせ」の後にこれが続くという流れがまず素晴らしいです。メロディー自体も非常に心地良いですが、それ以上に素晴らしいのがハモリとコーラス。絶妙な楽曲とはまさにこういう曲を指すと言わんばかり。歌における表現力も言うことなしで、まさに今年を代表する名曲になっています。

11.土曜の夜は
 ウワノソラのメンバーが作曲したこの曲は、アルバム発売に先駆けて7インチシングルとして発売されました。ある一定の年代だと、土曜の夜と言えばSUGAR BABE「DOWN TOWN」を思い浮かべる人が多いと思うのですが、この曲はかなりそれを意識している印象があります。自然に心地良く体を横に揺らしたくなるサウンドは、山下達郎あるいは大滝詠一が作ったと言われても全く違和感を感じない雰囲気。ただ休符を有効に使ったセッションを繰り広げる間奏以降の展開は紛れも無く新しい要素になります。もっとも曲が終わるまで70's後半〜80's前半・J-POP黎明期の流れはしっかり残っています。つまり言うと三十数年間引き継がれてきた日本の名曲の流れを、そのまま雰囲気を壊さずアップデートさせて作られた新しい曲ということになるでしょうか。コーラスやハモリを含めると、この曲の雰囲気を表現できる女性グループはNegicco以外にいないような気がします。Negiccoに歌って欲しい曲であり、また歌う必然性があって結果歌って頂いたという楽曲になるでしょうか。文句無しに今年トップクラスの名曲、いや最高の”音楽”とまで言い切ってもいいかもしれません。

12.おやすみ(Album Ver.)
 シングル「ねぇ バーディア」のカップリング曲、弦楽器とピアノをメインにした生音仕様。原曲と比べて半端無くバージョンアップしています。11.と続けて聴けば分かるこのオーラはアルバムだからこそ分かる感覚、13年間の集大成と言って良いトラックなのかもしれません。

13.私へ
 ラストはメンバー特にNao☆ちゃんがファンである坂本真綾が作詞提供。聴く人以上に歌う人、何よりメンバー3人を励ましてくれているようなバラード。それは自然に聴く人にも伝わる内容ではないかと思います。素晴らしい内容の歌詞を心を込めて歌う3人、これもまた”良い音楽”の根幹と言えるのではないでしょうか。


(総評)
 先行シングル曲、あるいは直前に行われた先行試聴会イベントの報告から凄い作品になるという予感は強くありましたが、本当に凄い作品でした。女性アイドルという形態ではありますが、音楽的に完全にそれを飛び越えたアルバムになります。むしろロックバンドや打ち込みメインのJ-POPの方々より、”音楽”を強く意識したアルバムと言って良いのかもしれません。

 楽曲の良さ・アルバムとしての流れもさることながら、今作はとにかく”丁寧にこだわって”作られた作品。生音メインのサウンドは奇を衒うことなく、基本に則った内容がほとんど。曲単位だと6.のような鋭い変化球もあるのですが、これもあくまで基本がしっかりしているから出来ることという印象があります。そういう音作りが出来るのも、今のNegiccoの強さなのは間違いないこと。欲を言うと少しだけ音程が不安定と感じる部分もあるのですが、それを加工せずにそのまま残すのも”生音重視”にこだわっているからなのかな、とも思えます。アナログレコードを積極的にリリースしているのが、その方針の表れとも言えます。

 CDが売れないこのご時世ですが、DVDを付けるとか多種発売なしでこのアルバムを売るのも凄いことだと思います(一応初回だけジャケ違い、シングルはさすがに通常+初回限定3種でしたが)。同じチャート集計週だと、乃木坂46は言うに及ばずRADIO FISHもTrySailも早見沙織もDVDないしブルーレイ付属という感じで多種発売を行っています。ですので各所でイベントは行いつつも、チャート的にはやはり不利な結果になっているようです。もっとも向こうはメジャーレーベルでこちらは一応インディーズ扱いのT-Palette Records、予算や制作環境の違いも大きいとは思うのですが…。流通等の面で考えるとレーベル移籍も視野に入っているだろうと思いつつも、T-Paletteだからこそ作ることが出来たアルバムという印象もあるのでこの辺りは難しいところ。それだけ今回の作品、チャートの結果云々を考えず純粋に音楽に力を入れて作られたという解釈もできるわけですが…。

 ですのでNegiccoのファンは言うまでもなく聴いているであろうこの作品ですが、この曲はむしろファン以外に聴いて欲しい作品です。特にNegiccoを知らない”通な音楽ファン”なら間違いなく好きになるアルバムだと思います。アイドルではありますが、おそらく音楽的にはアイドルから一番遠いところに位置する作品だと思います。11.のようなナイアガラサウンドもあれば4.のような渋谷系、2.だと80's後半のリゾートミュージック、9.はポップロックになるでしょうし12.に至ってはクラシックと言って良いかもしれません。日本の流行音楽史の中で、所謂一番ハイセンスと評価されている部分をそのまま切り取って一枚のアルバムに表現した、と書くと言い過ぎでしょうか。前作『Rice&Snow』は昨年末のアイドル楽曲大賞アルバム部門でブッチギリの1位でしたが、今回はそれだけでなくCDショップ大賞辺りも十分狙えるクオリティ。間違いなく2016年最上位にランクインする名盤、皆さんにも是非聴いて頂きたい1枚です。




posted by Kersee at 21:38| Comment(0) | アルバムレビュー(アイドル) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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